長野県安曇野市三郷温に鎮座する住吉神社。その歴史は古く、平安時代初期の大同年間(806~810年)に坂上田村麻呂が勧請したと伝えられています。 創建当初は烏川渓谷の角蔵山尾根の麓にあったとされ、宵祭では現在も神官や氏子総代が角蔵山山頂に登頂する伝統が受け継がれています。古城山には御旅所があり、例祭の翌日には神馬を立てて神事が行われていたという、歴史の重みを感じさせるエピソードも残されています。
住吉庄十八郷の総鎮守として、歴代領主からも崇敬を集め、国司藤原惟正や武田信玄も社殿の修築に携わったと伝えられています。武田氏滅亡後も、松本城の城主石川氏によって庇護され、文禄年間には社領7石が安堵されるなど、その歴史の中で幾多の変遷を乗り越えてきたことが伺えます。江戸時代には松本藩主からの庇護を受け、慶長20年(1615年)には三反歩の寄進もありました。
現在の社殿は天明6年(1786年)の建築で、安曇野市の指定文化財となっています。3間×2間の流造、銅板葺(元は柿葺)の簡素ながらも風格ある社殿は、当時の建築様式をよく伝えています。向拝と母屋の組物は舟肘木、頭貫の上には菊の彫刻が施され、千木と鰹木を3本乗せる屋根飾りは、大阪の住吉大社と同じ様式である点も興味深いところです。大工は松原平八という人物であったと伝えられています。
境内には、安曇野市の天然記念物に指定されている「住吉神社の社叢」が広がり、62科200種類もの植物が自生しています。中でも、樹高33m、幹囲5.45mの御神木「ヒノキ」は、その圧倒的な存在感で訪れる人を魅了します。 また、永禄10年(1567年)に書かれた古文書や、様々な時代の絵馬なども安曇野市の文化財として大切に保存されています。毎年4月に行われる「お船祭り」も、安曇野市の無形民俗文化財に指定されており、壮大な山車が曳航される様子は必見です。
さらに、住吉神社には、坂上田村麻呂と八面大王の伝説が深く関わっています。 坂上田村麻呂が八面大王を退治した際に、岩原山にあった社を現在の地に移したという言い伝えがあり、境内には坂上田村明神を祀った祠と銅像が建立されています。この伝説は、安曇野の歴史と住吉神社の深い結びつきを象徴する、ロマンあふれる物語として語り継がれています。
静寂に包まれた境内、歴史の息吹を感じさせる社殿、そして豊かな自然。安曇野の地に佇む住吉神社は、単なる神社という枠を超え、地域の歴史と文化、そして自然が一体となった、神秘的な空間と言えるでしょう。 訪れる人々に安らぎと感動を与え続ける、安曇野の隠れた名所と言えるのではないでしょうか。
関連リンク・参考文献
[1] 住吉神社(安曇野市)
[2] 住吉神社 | _寺・神社 | _寺・神社 | トリップアイデア | Go NAGANO 長野県公式観光サイト
[3] 住吉神社 (安曇野市) – Wikipedia
[4] 住吉神社(安曇野市三郷温字大原5932)- おみやさんcom
[5] 天然記念物の社叢が美しい「住吉神社(安曇野市)」|ぶらたび長野